🌸 鉢植えの植物から始まった論争
10月に、ロックグループ・オアシスの再結成コンサートが東京ドームで行われます。チケットの争奪戦が話題となりましたが、今年はレジェンドたちの活躍が目立ちます。60年代から活躍している80歳の“スローハンド”エリック・クラプトンやスティングが来日し、元気な演奏を見せてくれました。そして今月、70年代を代表するレッドツェッペリンの映画「ビカミング」が封切られます。今でも評価の高い故ジョン・ボーナムのドラムなど、IMAXという最新技術で聞く4人の演奏は改めて迫力を感じることでしょう。
このッドツェッペリンがデビューした頃、「ロックは体に良くない」という説がアメリカで話題となりました。いわゆるロック有害論です。ドロシー・リタラックの研究によるものですが、論争の始まりとなったのは鉢植えの花でした。
*参照:ピーター・トムプキンズ、クリストファー・バード著「植物の神秘生活」より
🌸 ロック音楽は若者をダメにする?
1968年、子供が無事成人したドロシー・リタラックは、音楽の勉強をしようとテンプル・ビュエル大学に入学しました。彼女は、生物学単位取得の為に友人と植物に音楽を聞かせて反応を見るという実験を行います。実験に使ったのはセントポーリアという鉢植えの花。そして、音楽を聞かせたセントポーリアの方が聞かせなかった方より枯れにくかったというレポートを提出します。
このレポートに理解を示した大学側は、リタラック夫人に全く同じ条件に維持された2つの温室を提供し、そこにかぼちゃ、トウモロコシ、ペチュニア、キンセンカ、百日草を植えました。
一つはクラッシック専門の音楽を流すラジオを入れたクラッシック音楽温室、もう一つはロック専門番組を流すラジオを入れたロック音楽温室です。クラシック音楽を聞かせた方が、ロック音楽を聞かせた植物より生長が良いのではないかという仮説のもと、実験は行われました。
結果、クラッシック音楽温室の植物はラジオの方へ葉を伸ばし、スピーカーに巻きつくものさえありました。逆に、ロック音楽温室の植物はラジオから遠ざかるように反対の方向へ伸びていき、それはまるでロック音楽を嫌がっているかのようでした。他に、次のことが報告されています。
・ロック音楽温室の植物は、クラシック音楽温室の植物と比べると、2倍の水を消費し、根も4分の一程短い
・植物はクラッシックの弦楽器、インド古典楽器シタールの音を好む
そして1970年、この話を聞きつけたCBSテレビが「流行りのロックは若者を駄目にするのでは」という番組を放送します。当時はビートルズが解散し、レッドツェッぺリンをはじめハードロックが台頭して人気でした。それを騒がしい騒音と嫌うグループが、ロック音楽が植物を枯らしたように人間にも悪影響を与えるという「ロック有害説」へと発展させたのです。賛否両論ありましたが、サンプルが少なく、結論はでないまま終わったようです。
🌸 いまだ謎が多い植物の世界
植物学において植物と音楽の関係は古くから研究されていました。インドやアメリカの植物学者が、音楽を聞かせると植物の気孔が大きくなり、通常よりも発芽や生育が早いという報告をしています。日本でも音刺激を与えた時の植物気孔開度の変化を調べていて、音の振動が気孔の開き始めに影響を及ぼすことまではわかっているそうです。植物は動物のような神経系を持たないので、音声を聞くこともそれに反応する事もありません。人に有害かどうかは謎のままです。但し、音という振動に刺激を受ける事は確かなようです。
リタラック夫人は今、召されたであろう天国で静かに暮らしていることでしょう。穏やかになったジョン・ボーナムの奏でるリズムに合わせ、植物たちに水をあげているかもしれません。論争から55年、ロックもクラシックも変わらずに人を楽しませています。論争の答えは出ているようですね。


